SIerとウェブ系のメールの使い方の違い

某大手SIerに新卒で入社して現場に配属されたとき、私が最も驚いたのがメールの量でした。

メールソフトにSMTPなどを設定して、メールの受信を開始した途端、堰を切ったように大量のメールが流れ込んできました。

1時間以上メールを受信し続けていたと思います。

 

SIerでは大量のメールが飛び交います。

 

チャット導入以前の時代では、少なくとも1日200通はメールが送られてきました。

そして「社員は常にメールをチェックしておくこと」という暗黙の了解がありました。

 

Becky!やThunderbird、Outlookなどのメールソフトは業務中ずっと開いていて、四六時中メールを打って、受信して、読むのが仕事でした。

 

一日に打つタイピング量は作家よりも多いでしょう。

 

とにかく一日中、出社してから帰るまで、ずっとメールしていました。

 

なぜSIerでは大量のメールが飛び交うのか

チームに所属すると、多数のメーリングリストに追加されます。

誰かにメールを送るときは「CCでメーリングリストを追加すること」という暗黙のルールがあるため、あまり関係なくてもメーリングリストメンバーとしてメールが飛んできます。

 

またメーリングリストも複雑で、親の上にまた親メーリスがあったり、子の下にまた小メーリスがあったりで、SIerさながらに多数の階層を織りなしていて、どこかのメーリングリストに飛んだメールが自分のところに飛んでくるようなことがけっこうあります。

 

1分に1通はメールが飛んでいたので、いちいち全部確認するとメールの確認だけで一日が終わります。

 

実際、SIerで働いている社員の半分くらいは「メールと電話が業務の7割、残りが会議」となっていました。

 

問答無用に追加されるメーリングリスト、とりあえずCCにメーリスを追加する、という文化がSIerのメールを増やしていたのは間違いありません。

 

自分の場合は「不要」「暇なとき以外読む必要はない」というフォルダを作って不要なメールを振り分けて見ないようにしていました。

 

時間は有限だからです。

 

ただ、そういう合理化、作業の省略は基本的には望まれません。

一部のSIerの人は合理化が大嫌いなので、

 

「届いたメールは全部読んで当然。メールを読み飛ばすなど言語道断」

 

というタイプの人がけっこういます。

「時間が有限である」という認識がないので、とにかく全部やって、残業でカバーさせようとするのです。

 

SIerでメールが増える理由は他にもあります。

 

SIerではとにかく作業を細かく分業して、一つ一つの作業を報告させます。

その一つ一つの作業がメールで飛んできます。

 

また、作業者側も「メールで報告したから」という既成事実があれば、いざというときに「責任を分散させる」ことができます。

 

SIer社員や中にいる開発者たちは「責任を取らないようにすること」に関して非常にモチベーションが高いです。

 

減点文化のため、責任回避のために手間をかけることを惜しみません。

 

そのためにいらぬ報告が生まれています。

 

チャットが導入されて効率化されたのか?

SIerでも2018年頃から社内に閉じた環境でのチャットが使われるようになってきました。

Slackは当然禁止ですが、自前で立てたオンプレ型のチャットツール「Mattermost」などを使ってチャットするようになったのです。

 

チャットを導入することでSIerの業務は効率化されたでしょうか?

 

はじめはメールに比べて大変効率が良いチャットに感動しました。

 

使っていたのが話が早い若手中心だったのもあります。

だんだんと偉い人もチャットを使い始め、余計な「ルール」が増えてきて、チャットが息苦しくなってきました。

 

あるときのプロジェクトマネージャーは、「チャットは24時間起動して、5分以内の返信せよ」と奨励していました。

 

気持ちはわかりますが、そうなると常にチャットに意識を寄せなければいけないため、他の作業への集中力が格段に落ちます。

 

結果として生産性が落ちるのですが、プロジェクトマネージャーにとっては「報告」や「レスポンスの速さ」が全てなので、「作業に集中できるかどうか」には頭が回りません。

 

余談ですが、そのプロジェクトでは20時以降パソコンを閉じてチャットに返信しないでいると、「サボっている」「なまけている」「もっと頑張れるのにやりきっていない」とみなされるような風潮がありました。

 

「最低22時まで」の残業が口では言わないまでも空気で強制されていたのです。

 

進捗が少しでも遅れ始めると、スケジュールを調整するのではなく、「22時以降まで全員を働かせる」という解決策を取り続けていた方でした。

 

いま振り返っても「すごい人だなあ」と感心します。

 

ウェブ系のメールの使い方

チャットで連絡するのが中心ですが、ウェブ系でもメールを使わないわけではありません。

 

toB向けのサービスを提供している場合は、お客様に関する内容はメールで飛んできたりします。

社内向けのややパブリックな内容もメールで流れることがあります。

 

ですが、飛んでくるメールはSIer時代の100分の1程度で、そもそも無関係なメールは飛んできません。

 

もちろんこれらは「ウェブ」「SIer」と簡単にくくれるものではないですが、社員の生産性を重んじる組織では余計なメールは飛ばない傾向にあるのは間違いないと思います。

 

そして、「エンジニアリング文化」が根付いている組織では社員の生産性が非常に重要なので、やはり不要なメールを投げまくる文化は生まれにくいです。

 

逆に「管理が中心の文化」が根付いている組織では社員の生産性よりもとにかく報・連・相が大事なので、些細なことでも大量の人間をCCに入れて、スピーディな報連相を求める傾向があります。

 

組織で働く上、報告や連絡は大切です。

メールもチャットもコミュニケーションの手段としてしっかりと使っていくべきです。

 

ただ、エンジニアリングが中心の組織ではメールやチャットだけを業務にするわけにもいかないので、必然的に使い方は合理化されていきます。

 

管理者脳の人にとってのチャットは「現在の状況をこまめに吸い上げられるツール」なので、とにかくレスポンスを早く、報告をこまめにあげさせる道具としてチャットを使おうとする方向に向かいやすいのです。