SIerではなぜ、エクセルにスクリーンショットで証跡(エビデンス)を取らせるのか?

「Excelに証跡をスクリーンショットで残す」というのは、NTTデータやNEC、野村総合研究所や富士通のようなSIerでよく行われている儀式です。

 

洗礼ともいえます。

 

Excelの表で「単体テストケース」を作り、その単体テストを実行した結果をいちいちスクリーンショットに取って、Excelに貼り付けます。

 

Excelに貼り付けたものを「証跡(エビデンス)」として、ファイルサーバーに残します。

 

悪名高きスクショエビデンスですが、正直何の意味があるのかよくわかりませんでした。

 

私はかつて、いわゆる一次請けの大手SIerの社員で、協力会社メンバーに「エビデンスを取得してもらう」立場でした。

 

毎回毎回ちょっと修正が入るたびにスクショを取りまくって、提出されるのですが、こんなんいちいち確認していられません。

 

スクリーンショットをいちいちじっくり見て「これ、正しいのか?」なんて確認していたら、それだけでテストをするのと同じくらい時間を取られてしまいます。

 

入社して4年目くらいまでは真面目にやってましたが、ふと「マジでこれ、意味ねえな」と気付いてやめました。

 

4年間気付かなかったのがアホでした。

 

スクリーンショットでExcelに証跡を残すのは何の意味もありません。

 

ではなぜこんな意味のない、馬鹿みたいな作業をやらせるのかというと、

 

「ちゃんと仕事しましたよ」

 

と証明するためです。

 

そして何か問題が起こったときに、責任を取らせるためです。

 

障害が起こったときには、「ちゃんとテストしたのか?」「テストしたっていう証拠を出せよ」「正しく動いていたのかよ?」と詰められます。

 

SIerの社員は人を詰めるのが仕事です。

 

そのときに「エビデンス」があれば、

 

「ほうらね、ちゃんとやっているでしょう。

 

出した証拠、ちゃんと確認したんですか?」

 

と言い返せます。

 

SIerのように外注メインの業務では「責任の所在」を明らかにしなければ自社と他社の仕事の線引きができません。

 

大手SIer社員を支配しているのは

 

「責任を取りたくない」

 

という強い思いです。執念といってもいいでしょう。

 

とにかく「自分が悪い」と言いたくない。

 

責任を取らないために何でもやります。

 

SIerの文化は基本的には減点主義。

成功は当たり前で、失敗は許さない。

 

障害が起こると会議に何度も出席し、システムに何の関係もない年寄りに「是正策」や「対応期限」などを説明しなければいけなくなります。

 

誰も失敗したくないし、SIerでの失敗はとにかく面倒くさいのです。

 

 

SIerでは組織が性悪説で回っています。

 

協力会社は尻を叩かなければ働かないし、しっかり証拠を残すように指示しないと仕事をしない。

 

「オフショア開発」といって、単価の安い中国企業のメンバーに「単純作業」であるプログラミングやテストをやらせ、自分たちは結果を受け取ります。

 

協力会社のメンバーは「上流」であるSIer社員に言われた通りの作業をしなければいけないので、プロダクトをより良くしよう、というインセンティブは生まれません。

 

SIerでのソフトウェア開発はとにかく退屈な単調作業になってしまうのです。

 

私はSIerで10年近く働いてきましたが、楽しそうに仕事をする人は一人も見たことがありません。

 

私は当然1秒たりとも楽しかったことはありませんし、同期・先輩・後輩誰もがつまらなそうに、いつもピリピリと怒って仕事をしていました。

 

とにかく仕事がつまらないのです。

 

いつも誰かが怒って、責めて、詰めて、説明させて、雰囲気は最悪でした。

 

誰も彼もが本質的に意味のない作業をやらされて、何も生み出さず、創造の喜びなど皆無な環境でした。

 

上流工程を担当する社員は一日中会議ばかり。

下流工程を担当するパートナー社員は一日中単体テストのエビデンスを取っています。

 

無意味な作業ばかりのSIer業務ですが、その中でも最も意味がないのがスクリーンショットエビデンスです。

 

ここまで散々書いてきましたが、このようなスクショエビデンスが必要となるのは、SIerが性悪説で仕事をする習慣があるからで、何か問題が起こったときに責任を取らないためです。

 

「ちゃんとやったから許してケロ」

 

という言い訳のために、いちいちスクショを残しているのです。

 

許してもらう相手は顧客だったり、同じ会社内の偉い人だったりもします。

 

そんなスクショなんて残してないで、問題が起こったらチームの責任、一緒に問題を解決する...という風に仕事を進めていけばいいのに、SIerでは問題の解決に全く責任を持たない偉い人がワラワラとわいてきて、

 

「説明しろ」

「報告しろ」

「どうなっているんだ」

 

と会議で大声で叫ぶわけです。

 

お前に説明したら問題は解決するのか?

お前は何ができるんだ?

逆にお前はなんでそんなに他人事なんだ?

なぜ上から報告させる?

お前が下に降りてきて一緒に調べろよ

 

と私は言いたくなっていたのですが、他の人はあまり疑問を抱いていないようでした。

 

SIerの文化に染まるとそういう疑問を抱かずに、当たり前に受け入れてしまうようになります。

 

ちなみにウェブ系企業では問題が起こったら誰も責めることなどせず、偉い人だろうとなんだろうと、一緒に課題を解決する方法を探します。

 

性善説で助け合いの文化がある企業では当たり前のことなんですけどね。